3-2 弁護士に頼むか、自分でやるか
医療事件の証拠保全手続きは、どうやってやるのか? こんなことは弁護士だって知らないこと。だから、弁護士向けのマニュアルが売られている。この失敗の経験の積み重ねによる有形無形のノウハウが、本来の弁護士料金である。
経験の少ない弁護士には、落ち度がある。それが重大な結果となるかどうかはわからない。経験豊富な弁護士なら、事案を聞いただけで勘が働く。何事も20年くらい続ければ、神業かのような職人芸というものを身につけるものである。
弁護士というのは、法曹関係者以外には敷居が高い。それで、訴訟をやると決めるほどの確信はないという段階では、とりあえず、弁護士に頼まずに自分でカルテをもらおうと考えるのは自然である。
証拠保全をやることそのものはそんなにたいしたことではないが、この失敗の経験がない初心者には、何が失敗かがわからない。
大工がつくる棚と、初心者がつくる棚とを想像してみれば良い。どちらも棚はできるだろう。でも、それにかかる手間と時間、見栄え、丈夫さ、加重や経年変化などは異なる。
証拠保全手続きを本人でやる場合は、裁判所に行って申請方法を聞けば良い。どうやるのかは、書記官が丁寧に必要書類や書類の書き方を教えてくれる。裁判官に却下されて、何度も書き直し、裁判所を往復することになるかもしれないが、弁護士向けのマニュアル本をみれば、どうということもないだろう。
証拠保全にかかる費用は、手数料、執行官や裁判官、書記官らの交通費(ガソリン代換算)。彼らは公務員であるから日当は必要ない。3千円でお釣りがくる。
そして複写代の実費。コピー1枚10〜20円程度。レントゲンのフィルム複写は1枚2000円程度から大きさによる。カメラマン方式の場合、1カット千円なんてやるわけにもいかないから、日当3〜5万円で日当標準か。慣れてない人では難しい。
これらはカルテの量によるから、数万円は必要。
弁護士に頼めば、複写実費とは別で、たいてい20万〜30万円はとられる。ついでに、ここに「過誤調査費」がのっかって、40万50万となったりする。もちろん、弁護士によっても値段は異なる。
このようなお金の節約のため、自分で手間がかけられる人で、訴訟をやるつもりがあまりなく、ただ自身の納得のためだけにカルテを調べたい場合などは、自分でやれば良いのではないかと思う。たが、勝ちにゆく訴訟が射程にあるならば、僕はお勧めしない。
そして、弁護士を頼りすぎないで、自分でも調べておくことをお勧めする。そうなると、なんのための弁護士料なのかという話にはなる。
事案にもよる。賠償請求額が140万円の訴訟で、40万円も訴訟前にかけていいのかという問題もある。
弁護士の技術は、公共財でもあるのだから、弁護士は、依頼人に丁寧に説明して公開すべきなのです。
でも、世の中には、「飯のタネだから、黙っているべきだ」と考える人は、かなり多い。「僕しかできないよん」とやるのである。
「自分が苦労して得たノウハウを、なんで無料で教えないといけないのか?」そのような下賤な発想をするのである。そうして自らの利益のために、裁判の発展を阻害しているのです。但し、たいていの弁護士は、教えるほどの技術はない。