3-1 証拠保全をしない弁護士は多い
この重要な証拠保全をしない「医療弁護士」は存在する。というより、よくいます。
カルテは、依頼人が任意開示をしちゃってる場合がある。相手に連絡して病院の弁護士にもってきてもらう場合もある。それではカルテ改竄の危険や漏れが大きくなる。「言われなかったので出さなかったのです。それも必要なんですか?」任意開示はこれが怖い。
しかし、証拠資料に足りないものがあっても、裁判所は指摘なんかしませんよ。それは原告の責任なんです。裁判所はどっちの味方もしません。被告が証拠を隠すのは単なる弁護活動の一貫なんです。気づかないほうが悪い。
証拠保全をしない理由のひとつは、弁護士同士が顔見知りだという甘さ。被告である損保弁護士は限られているので、いつも同じ事務所や同じ弁護士が出てくる。地方などでは、毎日、裁判所で「こんにちは」という関係なのである。そこになにがしかの遠慮があり、信頼があるのは否定できないだろう。
証拠保全に対して、病院のほうは開戦ととらえるので、いきなり、そんな喧嘩腰でこないでくれと、被告弁護士は言う。「カルテなんか、ちゃんと渡すから、お互い手間は省きましょう」というわけである。
でも、それは敵の戦略です。
一般的には、弁護士という職業は、事案ごとに敵味方に入り乱れるものである。その都度、依頼人の利益に忠実に、信義を守るのが仕事である。しっかりした弁護士は、そんな人間関係などおかまいなしに、平気で闘うことができる。
また、被告弁護士と顔見知りであることを利用して、準備手続きで裁判官が来る前になにげなく雑談を仕掛けて、有利な情報を引き出すこともある。原告側弁護士が被告弁護士と笑いながら歓談してたので、見ていた僕は、あとで一言いってやらんといかんなあ、と思って、その雑談を聞いていたら、えっ? えっ? あっ! 被告弁護士は、内心、しまった! と思ったことでしょう。
それはお互いさまである。
だから、「敵と親しそうに挨拶なんかしやがって、この馬鹿弁護士め」と思わないほうがいい。敵を油断させるテクニックでもあるのだ。原告としてはあまり気分の良いものではないが。
また、証拠保全をしない理由には、金がかかるということもある。だから、依頼人に負担をかけないようにしようという親心の場合もある。
証拠保全の費用は、弁護士に頼むと概ね20万円から40万円である。既に着手金で30万円、70万円、 150万円とかを受け取っていると、 弁護士としては追加請求をしづらいというのもある。請求しづらいなら、只働きは嫌だから、証拠保全をしない。言ってみれば、単なる手抜きの営業戦略である。
依頼人が手順を知らないことをいいことに、自己決定権を奪っているのである。
まあ。証拠保全は、弁護士にとっては面倒なんですよ。書類の手間もかかる。執行時の立ち会いの手間もかかる。だから、簡単にすまそうとする弁護士が多い。
そして、その重要性がわかっていない弁護士も、おそらく多く存在する。
医療訴訟は、カルテという物証を元に、裁判をやります。あなたが何を見聞きしようがどう考えようが関係ないの。その重要な証拠を、少しでも安全に確保するのが証拠保全手続きです。
相応に検討してのことならば、省くのもいいでしょう。しかし、基本的には、証拠保全をやらずにすまそうとする弁護士は、即座に解任することをお勧めします。その後、取り返しのつかないことになりますよ。