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1-3 医療訴訟の勝率は比較できない/患者側が負けてあたりまえ

 なぜ、医療訴訟(民事)では原告の勝訴率が低いのか?

1) 医療事件は、立証困難である。誰にもタイムトラベルはできない。過誤と結果の因果関係の完全なる医学的証明は、絶対に不可能。立証責任は素人である原告側だけにあるが、世界中の医学者にもできないことをやれるわけがない。
 そして、証拠がない。証拠の基本となるカルテの改竄は80%以上。

2) 医療の専門知識が必要となるが、医療に関する原告の知識はない。加えて、裁判において、医学的臨床的判断ができる裁判官はほとんどいないし、そのような調査機関もない。原告の援護射撃をする人は用意されていない。

3) 裁判の専門知識も必要となるが、裁判に関する原告の知識がなさすぎる。これは、何度も医療過誤裁判をやる人は滅多にいないためであり、医療事件に限らず、日常的に裁判に取り組んでいる人は極めて少ない。そのために裁判の状況把握が全くできない。
 また、マスメディアが医療裁判に無知であるため、その情報が誤解を産む。裁判の本当の内容がわからない報道が圧倒的。

4) 被告側弁護士は、損保や医師会などのいわば常連のプロが雇い主となっている。労働事件で裁判に慣れた労組が原告のバックアップにいるのと同じ。
 原告側弁護士は、訴訟の素人が直接雇っているために、手抜きをされる。手抜きをされても気がつかない。わからない。原告は、弁護士の使い方を知らない。

5) 裁判官は文系である。医学臨床がわからないだけでなく、科学的判断力を持ち合わせないことが多い。そのために事実解釈が間違っていることがある。

6) 時間がかかる。原告が医学的問題を調べる労力と協力医師獲得の全国行脚の問題。裁判の迅速化は、原告に圧倒的に不利。証人尋問の採用判断にも、この迅速化が関係している。

7) 金がかかる。費用については以下の3点。弁護士にとっての正当な報酬は、庶民の生活感覚からみて高い。協力医師の捜索代(交通費・宿泊代、日当等)がかさむ。もともと高額な労賃である医師の意見書代は、どうしても高くなる。
 それで、医療訴訟の原告側費用は、事案にもよるが、300〜500万円以上となり、1000万円級の場合もある。それだけの金額をドブに捨てれる人でないと、訴訟を充分には闘えない。意見書を頼む金がなくなった時点で、もう闘えなくなる。
 法テラスの貸し付けは、30万円程度までの少額で、翌月から毎月1万円ずつ返済するようなものなので、医療事件には適応不可。法テラスに所属している弁護士にしか適用されない、生活保護受給者レベルが適用基準であることなど、いろいろな問題があるが知られていない。日本の社会保障がヘタレなので、金銭面から国民が裁判を受ける権利が侵害されている。他に以前からある裁判所の扶助制度がある。条件として勝訴見込みの高いものとあるので、これは弁護士に一筆書いてもらう。「これは勝訴する事件です」と。法テラスよりは少しは多く出る。

8) 判決の妥当性は曖昧。裁判は、必ずしも合理的判断によって事実が検証されて審判がなされるわけではない。事実そのものの評価は、裁判官の心証、つまり、裁判官の日常生活の世界観による。だから、病院擁護か患者支持かは、世論の影響を受けて時代変遷する。
 変遷するのは審判の基準が固まっていないから。それは交通事故賠償から展開している医療訴訟のあり方が模索中であることを意味する。

9) 弁護士の弁論の質と量が違う。病院側損保は何十年も医療事件ばかりやっている弁護士だが、患者側の弁護士で医療事件ばかりやってきた人は少ない。これは、弁論の仕方だけでなく、協力医師のツテの大きさが直接に影響する。協力医師のツテを利権として、各弁護士が囲い込みをしているために共有されない。

10) 医療界には強固な保守性がある。患者側に協力する医師は、多大なる不利益を受ける場合が多い。学閥や学会閥。大学病院には人事権があり、開業医は地域の大病院や大学病院と顧客関係であることが多い。患者側に協力したために、医学部の教壇を下ろされ退職に追い込まれた医師もいる。自由な発言が確保され、独立を保持できる医師は極めて少ない。患者側の協力医師を誰も守ってはくれない。当然、協力医師は特別天然記念物クラス。

11) 実は、医療事件では、原告側敗訴の見込みの高いものが裁判になる。裁判になるような事例は、決定的な医療ミスであったとしても、カルテ改竄の完成度も含めて、損保(医師会)が「病院側が勝てる」と判断した事件。ここで重要なのは、医療ミスがあるかどうかが判断基準ではないということ。
 医療過誤事件の圧倒的多数は、裁判になる前あるいは提訴直後に、損保が示談で裁判を回避している。それで、決定的な医療ミスは、示談になるケースが多い。曖昧さを含んでいる事例は、裁判になりやすい。これは保険会社の費用対効果の損益問題。歴戦のプロが判断して、負けそうな裁判などはじめからやらない。
 よって、原告側の勝訴率は半々以下が自然。

 仮に、原告勝訴が4割で被告勝訴が6割なら、損保が「勝てそうだ」と判断して訴訟になったうちの6割が、実際に勝てたということ。損保としての経営判断は間違っていないことになる。
 他方、民事一般では、原告側が「勝てる」と判断した事案が、訴訟になることが多いので、勝訴率は高い。
 だから、民事一般と医療事件の勝訴率を安易に比較することは間違っている。
 但し、医療過誤のあるなしは、素人(原告側)の直感が正しいことが多いと考える。勝訴率を考えるとき、重要なのはこの問題。勝つべき者が負けるという状況があるということ。それが多いということ。

12) また、何をもって勝訴とするかには、大いに議論の余地がある。
 勝訴率とは、判決の数字である。実際には和解終結は50%。半分は勝敗に計上されていない。医療過誤の場合、和解は「立証の限界点」であるとも言え、場合によっては、あえて和解条項を重視することさえある。そして、どこまでいってもどうなるかわからない判決を前に、断然優勢であったとしても、和解を選ぶ原告は少なくないと思う。

 さらに、「相当程度の可能性」や「説明義務違反」「期待権」などで、立証の厳密性について患者側の救済が図られているが、その場合の賠償額は、非常に低い。
 死亡してても100万、200万円の勝訴はゴロゴロある。死亡事案での下級審の「相当程度の可能性」認定での損害賠償金額は、200万円〜700万円での間に分布で平均346万円。別の調査では、100万円〜1000万円に分布で平均416万円。
 でも、医療裁判の訴訟費用総額は、簡単な事案で300万円。ちょっと込み入ると500〜800万円ですよ。それ以上も珍しくない。さらに勝訴した場合は、弁護士に10%〜20%の成功報酬を支払う。
 弁護士の問題もあるんだけど、責任=賠償金として考えたとき、そんなのを「勝った」と言えるでしょうか?

 そして、勝訴率で注意したいのは、「勝訴1件の影に、和解5件、裁判外での示談20件、若干の見舞金40件」の指摘があること。和解を50%とするなら、敗訴は4件。弁護士としては、まあ、そんな実感なのでしょう。僕が得た感触では裁判外解決はもう少し多い。訴訟3件につき示談見舞金で70件。どうです?
 ともかく、これらには、全てなにがしかの金銭が支払われている。
 裁判の判決という視点ではなく、賠償された事件という点から見るならば、被害者への賠償責任と勝訴率とには、直接の関係はなにもない。

13) 医療過誤問題についての世論は極めて貧困な状況にある。だから、医療訴訟を起こすと、原告はあらゆる人たちから誹謗中傷を受ける。精神的圧力は多大。患者側は、負けろ負けろの大合唱というわけです。たいていは、言っているほうは悪気があるわけでもなく、ただ自分の見方や考えを言うだけなのですが、これが裁判意欲を大きく減退させる。
 日々、裁判の準備を進める中で、これは痛い。孤立無援の闘いとなる。ストレスのせいで鬱病やPTSDなどの精神障害から胃腸系の病気までとも闘うことになる。労力的にも時間的にも金銭的にも裁判外での闘いは原告に重くのしかかる。

14) このような原告を社会的に支援・援助する機関はどこにもない。一応は、原告を支援する弁護士団体や市民団体、医師団体がいくつかはある。しかし現状での課題は多く、いつもいつも正当かつ妥当な情報が充分に提供されているわけではない。これらの対応に、失望あるいは激怒している原告は極めて多い。
 頼るほうもどうかしているんだが、事情を聞いてみると、絵に描いたような徒労と痛烈な仕打ちが続く。裁判中の齟齬は、どんどん拡大する。患者側を負けさせる要因が、友軍側にあるという話です。これは、専門家にせよ、市民団体にせよ、大きくは意思疎通の問題です。
 たいていは、隣で機関銃を撃ってる大将のせいで負けます。患者側弁護士のことです。まあ。そんなに一生懸命やる人は珍しいとは思いますが。連中にとっては、いつもの美味しい仕事でしかないのですから。

15) 医療訴訟では、このように原告側が圧倒的に不利な状況から戦闘が開始される。それでも訴訟を起こす限り、あなたはこれら全ての障壁を粉砕して、勝利をつかまなければならない。
 なに。統計数字なんか無意味です。勝訴率が低いなどというのは、弁護士のいい訳にすぎません。ごまかされてはいけません。

 たとえ勝訴率が1%であろうとも、あなたがその1%にはいれば良いだけのことです。そのとき、あなたの勝訴率は100%になるのです。